アンドレ・ケルテス 「モンドリアン宅にて、パリ」
ポンピドゥー・センター 1926年 25×20cm
アパートの部屋の内側から入り口を通して、外の階段と鉄の手すり、踊り場などが視野におさめられている。
部屋の内側では、左側の暗い壁に山高帽とマントが掛けられている。手前には花瓶にいれられたチューリップが簡素なテーブルに影を投げかけている。黒と白のコントラストと諧調に目を奪われないわけにはいかない。
傾いた水平のテーブルや階段、水平に広がる床や階段などと部屋の左側の壁や階段の向こうの壁は対立しながらも明るさで一つにつながっている。
部屋の左側の暗い壁は左から右に段階的に下降して外の階段や蛇行する手すりと共鳴している。それに気づくとテーブルと足拭きマットのつながりが見えてくる。
すべての部分がコントラストと諧調の関係の網目に確実にポジショニングされている。時間を停止させて空間を思いのままに秩序づけたかのようだ。
ピート・モンドリアンがオランダからパリに来て、「図」と「地」とが一つになった場を平面的に仕切り、アンバランスのバランスでまとめた抽象絵画「赤、黄、青のコンポジション」シリーズを本格的に始めるのは1921年。「赤、黄、青のコンポジション」の制作が続けられていた1926年に、モンドリアンが住んでいたのはモンパルナスのデパール街のアパートだ。
ケルテスは1925年にハンガリーのブダペストからパリにやってきたばかり。
部屋の入り口左側の柱は左右の中心よりも右側に寄せられている。しかし、右半分に明るい部分がより多く、しかも奥行きがあるので、見かけ上は柱が中央にあるかのように感じられる。
時間が停止してフリーズしたような静謐な空間の雰囲気をさらに強めているのは、造花のチューリップだ。
丸みを帯びた花瓶は階段の最下部の丸みや山高帽、そして、手すりにも呼応して、黒と白のコントラストや諧調と同じように、ドラマチックな動きをかもしだしている。
凍った時間が凍って静止したまま生の鼓動を脈打たせているのである。
モンドリアンの「赤、黄、青のコンポジション」を、モンドリアン自身の部屋に置き換えたかのようではないか。
(早見 堯)
*この文は、人形町ヴィジョンズで開催されている14名による「きらめく星座」展出品作品の一つとして、会期中(7月3日~21日)、「ほぼ」毎日、更新される予定です。
人形町ヴィジョンズ「きらめく星座」展 http://www.visions.jp/
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