2012年7月11日水曜日

生の臨場感  <きらめく星座 7>



         吉田捻郎「作品」 1955年 油彩、板 90×60.8cm 芦屋美術館所蔵
          「第2回具体美術展」に展示 小原流会館 東京 1956

黒い「地」に、上下の縁が肉厚の油絵具で盛り上がったタッチの痕跡が残されている。タッチというよりも絵具の塊といったほうがいいかもしれない。

黒い「地」は奥行きや広がりを抑えた即物的な支持体であることが強調されている。色や形、空間として見られることを拒絶している。絵具の物質的な盛り上がりを痕跡として残した「描く」、というよりも、絵具をこすりつけた行為も伝わってくる。

かつて、バーネット・ニューマンは「最初の人間は棒で地面に一本の線を描いた」と言ったことがある。人間が自分と自分以外の世界とを分節化して、畏怖の感情を抱いて外の世界にかかわった始めだ。絵画の始まりでもあった。

吉田捻郎は地面に線を描いたのでも、一握りの土塊をこすりつけたのでもない。
限定された絵画を思わせる黒い矩形のパネルに絵具を塗り延ばしたのだ。
絵具の物質感の強調や塗り延ばす行為は日常的な「もの」との関わり方に似ている。色や形、空間によって形成される絵画をわたしたちの生の日常に連れ戻している。

極度に洗練されて、人間の生の実存から遠ざかってしまった絵画、あるいは、バーネット・ニューマンが述べたような始原的な描く人間が生きていた生の現場から遠ざかってしまった描くこと。それを、もう一度、生の現場に連れ戻そうとしているではないだろうか。

吉田捻郎のこれは「絵画=painting」ではなく、「作品=work」だ。モダニズムの多くの絵画のように、絵画の成立の条件を問うことを通して表現を生みだしているのではない。「美術」という文脈のなかに人間の生の臨場感を生け捕りにしているのである。
(はやみ たかし)
*この文は、人形町ヴィジョンズメールマガジン7月号に掲載されました。メルマガを毎月送信希望の方は、下記の人形町ヴィジョンズメールでお申し込みください。
この文、人形町ヴィジョンズで開催中の「きらめく星座」展の出品作品の一つです。展覧会会期終了の7月21日まで毎日更新予定です。
人形町ヴィジョンズ メールアドレス visions.gallery@gmail.com 
http://visions.jp/


0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。