2012年6月20日水曜日

ポール・セザンヌ「カーテンのある静物」 1894-1895年 油彩 カンヴァス 55×74.5cm エルミタージュ美術館 空気で触れ、光を撃つ




パープルからセイルリアン・ブルーまでの色味のブルーと、レッドからイエローまでを含んだオレンジ。「カーテンのある静物」はこの二つの色彩が相互に浸透しあい、協奏して高らかに鳴り響いている。わたしたちの感覚を刺激し高揚させる。
テーブルやその上の果物、皿や水差し、テーブルクロスなどでは明るい色調、カーテンや壁では比較的暗い色調で、ブルーとオレンジが展開されている。そこがメインステージだ。同時に、画面のいたるところでブルーとオレンジは葛藤し競合し、そして融和を生成しつづけている。
もっと強くブルーとオレンジが交響曲を演奏している絵画がある。バッロク的力動感にあふれたオルセー美術館の「りんごとオレンジ」(国立新美術館「セザンヌ」展で展示中)だ。これとは雰囲気が違う。視野を狭くし、前景と後景とのコントラストに焦点を移している。狙いを絞った感じだ
ブルーとオレンジ。セザンヌのほとんどすべての絵画に登場する二つの色彩である。空気と光を感じさせるために強調すべき色彩だとセザンヌ自身が語っている。
空気と光の表現はセザンヌだけの問題ではない。西欧絵画の基本だ。漂う空気と散乱する光の厚みを二次元の平面にどう定着させるか。伝統的なヴァルールはこの問題を避けて通るわけにはいかなかった。
伝統的なヴァルールに従う絵画では、空気と光は対象の空間的な存在感を表す道具だった。
「カーテンのある静物」では対象が空気と光に変貌している。テーブルクロスはいつの間にか皿に融合している。手前の皿の左下の縁にテーブルクロスの盛りあがったふくらみが連続し、右側のテーブルクロスはテーブルに上層と下層で透過しあっている。果物は光が転調するオレンジの色彩になって空気のブルーと横方向で連続している。こうした浸透や融合がいたるところで生じているのだ。
セザンヌは対象に空気(ブルー)で触れながら光(オレンジ)を撃っているのである。
注;セザンヌの「カーテンのある静物」は国立新美術館で開催中の「大エルミタージュ美術館展」から取材しました。
(はやみ たかし)

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