2012年10月16日火曜日

「上」に描いて「下」を引き出す

辰野登恵子「WORK80-P17」1987年


               油彩・カンヴァス 248.5×333.3cm 辻和彦氏蔵

東京の国立新美術館で開催中の「与えられた形象 辰野登恵子 柴田敏雄」展で印象に残ったことが二つある。

一つは二人展の面白さだ。絵画の辰野登恵子と写真の柴田敏雄が互いに影響しあい刺激しあって制作を続けてきた様子がよくわかる。「すでに」そこにあるカンヴァスや自然に働きかける人の「蓋然的な」ノイズとしての営為。二人の共通した制作のモチベーションなのでは。一人の展示よりもよりわかりやすい。互いに相手がいなかったらこんな作品展開はなかっただろう。
もう一つは、辰野登恵子のアーティストとしてのキャリアの最初から今までずっと持続している制作の型というかパターンのようなものが見えてくることだ。辰野登恵子自身の次のことばがほとんどすべてを語っている。

油彩では「半透明なおつゆを何度も重ねて下の色を引き出しながら、最終的に上の色を決めます」。以前、スカンブリングに触れた発言もあった。
イエロー・オレンジ系とブルー・グリーン系が使われた「WORK87-P-21」(1987年)。二つの系統の色が相互に重ねられて引き出しあっている。グリッドもカンヴァスの潜在的な構造として「下」から引き出されている。
料理する必要があるのかと思えるほどの美味な生牡蠣を食べたときのことを想いだしてみたい。縦糸と横糸でグリッド状に織りなされたカンヴァスの空間が完璧に見えたとしても、生牡蠣にレモンの一滴をかけるように、カンヴァスの上に「蓋然的に」痕跡を描くことでしか完璧な空間を指し示すことはできない。

シルクスクリーン版画の「UNTITLED-27」(1974年)で、自然のようにそこに存在しているグリッドへのブルーのノイズを痕跡化して以後、「上」に重ねて「下」を引き出すことが辰野登恵子の制作の方法でもあればテーマにもなったのだろう。

                    UNTITLED-27 1974年 シルクスクリーン・紙


                    WORK80-P17 1980年 油彩・カンヴァス


「UNTITLED-27」から「WORK80-P17」(1980年)、「87-P-21」(1987年)、「UNTITLED94-3」(1994年)、そして2012年の「望まれる領域Ⅱ」まで。イエロー・オレンジ系とブルー・グリーン系による作品を通して見えてこないだろうか。

                   UNTITLED94-3 1994年 アクリル・カンヴァス


                    望まれる領域Ⅱ 2012年 油彩・カンヴァス
             
(はやみ たかし)

※「与えられた形象 辰野登恵子 柴田敏雄」(2012年8月8日~10月22日国立新美術館)から取材しました。


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