村山知義「美しき少女等に捧ぐ」
油彩 カンヴァス 94×80.5cm 1923年頃 神奈川県立近代美術館
直線と曲線で縁取られた形が組みあわされている。グラデーションが施されているものもある。
比較的大きい形はどこかに開口部をもって他の形に連続し、小さい形は閉じたものがいくつか散在している。形を縁取る直線と曲線は相互に呼応し、同時に、離反しあってもいる。
「サディスティッシュな空間」(1922/23年 京都国立近代美術館)のように、迫り上っていく形が徐々に奥行きをつくりだしているという感じはない。あるいは、木や金属などを主材料にした「コンストルクチオン」(1925年 東京国立近代美術館)ほど空間感が希薄な即物的な雰囲気でもない。
左右中央に位置する黒い形は注目に値する。他の形との関係で「図」として見られると同時に「地」としても現れてくる。下の方に下がると緑味を帯びてさらにいっそう「地」として機能するものになっている。
そこに、左方の詰め物がされた布と、右方の胃のような形との左右での関係に気づくと、黒い形は中心に大きく置かれているにもかかわらず、中心性や求心性が弱められ、左右に拡張する空間が現れてくる。
最上部には15、11、12、17の数字、左隅には「美しき少女等に捧ぐ」のドイツ語、ほかにも文字や数字が記されている。書体が変えられていることは重要だ。数字や文字は書体を変えようが色を変えようが常に記号としてはオリジナル(本物)だ。りんごを描いた絵がコピー(再現)であることから逃れられないのとは違っている。
再現的ではない抽象的な形、「図」と「地」のコントロール、意味を脱臼してオノマトペーのように機能する文字と数字の「オリジナル」性、詰め物がされた布の文字や数字と同じ「オブジェ」性。20世紀モダニズム美術の問題群がことごとく取りあげられている。
重要なのは、こうしたもののすべては、「描写」とは異なる総合的キュビスムに由来する「組みあわせ」と、そこから派生したコラージュの方法で展開されていることだ。
20世紀美術のもっとも20世紀美術らしい発明である「組みあわせ」を、いち早く駆使して、いくぶんぎこちないとはいえ、力強く生き生きした動きを醸しだしている。日本の「新興美術運動」では貴重な作品だ。
(はやみ たかし)
2012年8月11日
※「村山知義の宇宙」展(世田谷美術館)で取材しました。
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